園長日記

自信はどうして育まれるか

 

 植松努さんという方がいます。北海道赤平で「植松電機」という会社をしています。植松さんはご自身の会社でロケットを作っておられます。社員は20名という小さな会社です。植松さんのもとには年間およそ1万人の人が訪れてロケットを飛ばしにやってくるそうです。その中には、宇宙関係の仕事をしている人だけではなく全国の中学生、高校生も訪れてロケットの打ち上げ体験をするそうです。

 植松さんがこのロケットの打ち上げ体験を始めたきっかけは、植松さんのお子さんのクラスが学級崩壊だったそうです。植松さんはいじめが繰り返されるクラスを見て、「どうしてこんなことになってしまうんだろう」と思う中で、「ひょっとしたら子どもたちには自信がないんじゃないかな」と思ったそうです。そして、クラス担任にロケットの打ち上げ実験をこどもたちにさせてあげたいと申し出ました。しかし、学校の先生は最初から「無理です。ちょっとでもうまくいかなかったら、ぐちゃぐちゃにしてしまいます」と言ったそうです。

 植松さんはそれでもお願いをしてロケットの打ち上げ実験にこぎつけます。植松さんはまずこどもたちに何も指示はせずに自由に作ってもらったそうです。普段のこどもたちは何か取り組む時にいつも先生の指示に従っていたそうです。そして、指示に従わなかったり、間違うと怒られてしまう。すると、こどもたちは「叱られるくらいなら、やらないほうがいや」となる。でも、自由に作るのなら「正解」はないので叱られない。好きにやっていいのなら、こどもたちはどんどん取り組んでいく。

 しかし、いざロケットが完成すると今度はこどもたちが打ち上げをする前から言い訳を始めたそうです。「私のは失敗する」、「どうせダメなんだ」と。でも、試したらどの子のロケットも打ち上げが成功し、見事にパラシュートも開いたそうです。「どうせダメだ」と言っていたこどもは嬉しそうにしていました。植松さんはこの姿を見て《小さな自信は大事なんだ》と知ったそうです。そうしてそのクラスのいじめはなくなっていったのだそうです。

 植松さんは現在のロケットの技術開発について日本では新しい技術に挑戦をしていないということを述べています。理由は「失敗したくないから」なのだそうです。宇宙開発は失敗が許されないから古い技術が使われているというのです。《「失敗しないためには、挑戦しない」のが安心》という現実があるのだそうです。しかし植松さんは言います。《失敗すれば、新しいことがわかるのに。失敗から工夫すれば、もっといいことがわかあるのに。失敗を繰り返してやがて成功すれば、自信がつくのに》と。

 私は植松さんの言葉に触れて「こどもたちのやってみたい」という意志を守り、その意志を育んでいくことの大切さを学びました。リタ幼稚園においても「やってみたい」という思い・意志を大切に保育を行っていきたいと改めて思いました。そのためには、こどもたちが「安心して失敗できる環境」を整える必要があります。「今日できなくても明日できるようになる」とこどもたちを信じる必要があります。幼稚園の教育方針には《豊かな愛の中で、目には見えないこころを育む》というものがあります。「安心して失敗できる」「自分は信じられているんだ」という「愛」の中にあってこそ、一人ひとりのこころは安定するのです。「心の安定」とは「安心感を持つ」ということであり、「自信」を持つことができるということでもあります。そうやって、一人ひとりの生きる力を育むことのできる園でありたいと願っています。

参考:『「どうせ無理」と思っている君へ 本当の自信の増やしかた』 植松努さん 2017年 PHP

 - 日記

■前の記事へ
心をたてなおす力
■次の記事へ
冬の身支度から