まど
私が初めて「幼稚園」という場所で働くことになった時のことです。幼稚園の園長の経験のある先輩から「こどもにとっておとなは『窓』のような存在なんだ」という言葉を教えられました。
例えば電車の窓から景色を眺めて色々なことを感じ取り、世界を広げていくように、こどもたちは「おとなという窓」を通して世界を知り、広げていくんだ、というのです。だから保育者を含めたおとなたちは常にこどもたちに見られていること。それもただ見られているのではなく、一人ひとりの言葉や姿を通して世界を知り、世界を広げていっているのだ、と。
それゆえに、出会うこどもたち一人ひとりを前にしてどんな言葉を届けるか、どんな行動をするか、どんな生き方をするのかがとても大切になっていく。そのようなことを教えられました。
こどもたちは私たちおとなを通してどのような世界を見つめているでしょうか。その目に映る世界はこどもたちにとって、安心や平和に生きることのできるものとなっているでしょうか。こどもたちが希望を持って生きていくためには、おとなと呼ばれる一人ひとりの言葉や行い、生き方が問われています。
リタ幼稚園ではそういう意味において、こどもたちに対して誠実な言葉がけを心掛けています。例えば、丁寧に名前を呼ぶこと、否定的ではなく肯定的な言葉を届けようと努めること、そして、こどもたちの言葉に心を傾け応答すること、です。また、保育者が遊びにおいても活動においても、また礼拝においても真剣に取り組みます。
一方でおとながいつも完璧であり続ける必要もないとも考えます。悩んだり、弱さを持っていたり、うまくいかないことがあったり。でもそこで諦めずにやり直そうとしたり、どうやったらよりよくなるだろうかと試行錯誤したり、勇気を持ってチャレンジする姿も時にこどもたちと共にすることがあります。
そんな姿を通してこどもたちが「言葉の大切さ」や「真剣に取り組むことの面白さ」、「安心して失敗いいこと」に気がついていってくれればと思っています。その一つひとつがこどもたちがこれからの時代を生きていく上で大切な力や経験となることを信じているからです。そのためには保護者の皆様のご協力も必要となってくると思います。どうぞ、これからもこどもたちにとっての「窓」として共に歩んでまいりましょう。よろしくお願いいたします。
変わらないもの
同じ1日」は二度となくて、今日は昨日とは違うし、明日もきっと今日とは違う。そういう毎日を生きている・・・。そんなことを幼稚園の合同礼拝でお話をしました。すかさず「どういうこと?」とちゅうりっぷ組のこどもから質問があり、「毎日朝、起きた時、ぴったり同じ時間に起きることはないよね。昨日とは違う服を着るだろうし、ごはんも違うかもしれない。目には見えないけど、髪の毛がちょっと伸びてたり、背もちょっと大きくなってるんだよね。だから毎日が同じっていうのは実はないのさ」と私はこたえました。すると、そのこどもは私の思いを受け止めてくれたような、そんな相槌をしてくれました。言葉のやりとりを互いに交わすことができ、嬉しい瞬間でした。
絶えず変化し続ける毎日だけど「でも、変わらないものがあるんだけどなんでしょう?」と私はみんなに質問をしてみました。いろいろな反応があって、しっかりと考えたり、言葉を受け止めて応答しようとしている姿を見て一人ひとりがとても輝いて見えました。そして、わたしは「変わらないことは、神さまがいつもみんなと一緒にいてくれることなんだよ」と伝えました。
礼拝が終わった後にある先生が、「変わらないことはなんでしょう」という私の質問に「幼稚園に来ること」と答えていたたんぽぽ組のこどもがいましたよと教えてくれました。礼拝の時にはその言葉に気がつかなかったので、わたしは急いでそのこどものところに行って話をしました。「礼拝の時に『変わらないことは、幼稚園に来ること』って言ってくれたんだよね?」。「うんそうだよ」。どうやら何人かのこどもが考えを出し合ってそのように言葉にしてくれたのでした。
わたしは心がとても揺さぶられた思いでした。卒園を控えたこどもたちです。「幼稚園に来ること」が終わってしまうそんな心情の中で「幼稚園に来ることは自分たちにとっては変わらないことなんだ」というのです。きっとわかっているんです。自分たちがもうすぐ小学生になること。「変わっていくこと」を。
誰にとっても「変わっていくこと」は不安を伴うことでしょう。しかし、変わって行かざるを得ないのがいのちだとしたら、大切なことはその不安や心配とどう向き合ったり、折り合いをつけたり、心を納得させることだと思うのです。そして、今このこどもたちは「幼稚園は自分たちにとって楽しい場所だった。大切な時間だった」と思っていて、それは「変わらない」と言い切れてしまうほどの確かな気持ちなのです。そうやって、「期待と心配の入り混じった明日」を望んでいるのだと感じました。私は「ありがとう。みんなが幼稚園に来てくれてともひろ先生はとても嬉しいです」と感謝を伝えました。
不安に際してその気持ちを立て直す力、自分にとって大切なものがあると知っていること、そしてそれらの気持ちを言葉にして届けることができる心はなんて豊かで素晴らしいものなのだろうかと思います。それらがきっと一人ひとりがこれから大きくなって、時に変わっていく人生において大切な生きる力になるのだと信じます。
そうやって、こどもたちが明日が良い日であると望むことができるように、信じることができるように、そんな力を育むことのできる「一人ひとりを大切にする幼稚園」として変わらずに立ち続けていきたいと思います。
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