「いいことかんがえた!」
ある朝、お家の方に送られて幼稚園にやってきたさくら組のこどもが「ぬりえをしよう」と話しかけてくれました。普段はまっすぐお部屋に行くそのこどもですが、その日はお家の人と離れたくなかったようで、涙の跡がほっぺに残っていました。
そんな様子を見てわたしは「OK!ぬりえしよう!」と一緒にぬりえコーナーに向かいました。わたしは苦戦してクワガタのぬりえを取り組んでいる間、そのこどもは何枚ものぬりえを丁寧に塗っていました。やがてお片付けの時間となり、わたしもそのこどももそれぞれ自分のお部屋へと向かいました。
しばらくして、そのこどもが職員室を訪ねてきました。両手にはさらにたくさんのぬりえを持っています。「いっぱいぬった!」と見せてくれました。丁寧に楽しんでぬりえをしたことを一緒に喜びました。そのこどもは「このぬりえを持って帰るんだ」と嬉しそうに話しています。「カバンに入れて帰る?」とわたしが聞くとしばらく黙って考えています。「このままカバンに入れるとぐちゃぐちゃになっちゃう」と困り顔です。
どうしたらいいかなぁと二人で考えていると、パッと顔が明るくなって「いいことかんがえた!」とお部屋に戻って行きました。
しばらくすると、手作りのぬりえ入れを作って戻ってきました。これで大丈夫だね!と喜び合いました。そのこどもは、自分でやってみたいことを選んで、集中して取り組んで、困難があっても打開策を編み出して一つひとつを乗り越えていきました。
お家の人と離れる寂しさも、そういった遊びの中で折り合いをつけて、心を切り替えて行くことができていたのだと感じました。このこどものもっている力の素晴らしさに触れさせていただいた瞬間でした。
「いいことかんがえた!」。そんな言葉を日常でも耳にすることと思います。でも、おとなの目には「何がいいこと?」と感じてしまうかもしれません。けれども、困難な場面、悲しい場面、葛藤を抱える場面においてのこどもたちの「いいことかんがえた!」という前向きな気持ちを大切に受け止めて行きたいと思います。
「いいことかんがえた!」は新しい道を切り拓く力の始まりです。「いいことことかんがえた!」は幸せを見つけ形にする始まりです。そして、その幸せは自分はもちろん、自分の周りの人をも幸せにする「いいこと」であってほしいと思います。
幼稚園ではよくこどもたちの「いいことかんがえた!」が聞こえてきます。その度に、こどもたちが自分自身で道を切り開き、乗り越えていっている瞬間なのだと受け止める時、それは大きな喜びになるのだと思います。
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