漫才・ダジャレ・ことば
毎年12月に行われる漫才のグランプリでの審査員の言葉が心にとまりました。それは、決勝戦のファーストラウンドで870点という高得点を叩き出した漫才を受けての言葉で次のようなものでした。
「僕は師匠から漫才は言葉で絵を描きなさいと教わったんです。(二人の漫才では)絵が浮かんできて、おかしかった」。私はその言葉を聞いて、なるほどと思いました。
870点の漫才のネタは相方に「車」になってもらうという現実離れした設定でしたが、漫才をする二人の言葉から確かにその姿が浮かんできて、気がつけばその世界観に引き込まれている私がいたのでした。私も普段仕事柄、お話をすることが多いので「どうやったら相手に言葉が届くだろうか、伝わるだろうか」と考えて日々生活をしています。「絵が思い浮かぶ言葉」を私も追求していきたいと感じました。
登園バスに添乗するときにある年長組のこどもから「ともひろ先生クイズやって!」とリクエストを必ず受けます。「赤色のフルーツはなんでしょう?」といったクイズやなぞなぞなどを出題するのですが、どうしてもネタ切れになってしまいます。そして最終的にはオリジナルの「ダジャレもんだい」と呼ばれるクイズを出してこどもたちを悩ませるということになっています。例えば「銀色のペンが好きな鳥はなんでしょう?」という問題。答えは「ペンギン」です。私が考えた問題なので、こどもたちはすぐにはわかりません。答えを言うと決まってこどもたちは「なんで?」と言います。「ギンのペンが好きだから、ペンギン」とダジャレの解説を自分ですることほどなんとも言えない気持ちになることはないのですが、それでもこどもは「わからな~い」と言っています。そうなんです。育ちの中で語彙が増えて「同じ音の言葉なのに意味が違う」ことに気がつくわけですから。まだその育ちの途中なのです。
そうやって、春からずっと「ダジャレもんだい」をしていた私はいつしか「ダジャレもんだい」しかリクエストされなくなりました(他の先生にはリクエストしないようです)。さて、冬になって私はこりずに「いつも滑ってしまう鳥はなんでしょう」という問題を出しました。答えは「ツル」です。そして「正解はツルでした!ツルッと滑るからね!」と解説を入れるとその日はこれまでとは違う反応がありました。こどもたちは「あ~!確かに!」といっているのです。「ツルッと滑る鳥」がイメージできたわけです。そうやって、幼稚園についてバスを降りる時、年長組のこどもがこう言ってバスを降りていきました。「ともひろ先生~。ダジャレっておもしろいね!」。
私は嬉しかったです。「ダジャレがおもしろい」。つまり、「言葉ってこんなにおもしろいんだ」ということにこどもが気がついた瞬間だと感じたからでした。言葉でお互いに分かり合えるとこんなに嬉しいんだと、こどもが実感をした瞬間に立ち会うことができたから私はとても嬉しい思いでした。
2025年のリタ通信では「言葉の大切さ」について書き続けてきました。分断や差別、暴力が渦巻く世界において、言葉で伝えてわかり合おうとする力や心の大切さを私は感じているからです。そして、その大切さをこどもたちとも共有し、確かめ合うことができたことに大きな希望をいただいた思いでした。
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