園長日記

葛藤や揺らぎの中で

 

 リタ幼稚園では各お部屋の環境設定を整えることを心がけています。「コーナー分け」と呼んだりもしますが、「積み木コーナー」、「おままごとコーナー」、「絵本コーナー」、「折り紙コーナー」など空間を意図的に仕切っています。「コーナー分け」をする意図としては、何をして遊ぶ空間かがわかりやすいので「こどもたちが遊びを選択しやすい」ことにあります。また、「おもちゃが混ざりにくい」のでそのおもちゃを遊び込むができるようになり、奥深さや楽しさを存分に味わうことができます。

 いくつもあるコーナーの中で「ひとり遊びコーナー」を整えるよう心がけています。ともすれば、「みんなで一緒に遊ぶことがいい」と思いがちです。もちろん、自分と同じ気持ちのともだちと共感し合いながら遊んだり、異なる気持ちを持ち寄りながら葛藤を重ねて新しい発見や遊びを生み出していく営みはこどもたちの成長にとって必要な営みです。けれども、「ずっと誰かと一緒」は時に疲れてしまうこともあります。大人もそうですよね。だから幼稚園でも、うまくいかなかった時、気持ちを切り替えたり、落ち着けたりする「ひとりになってもいい」環境も保証されている必要があると思います。「ひとり遊びコーナー」では例えばビー玉を入れると坂道を転がっていく「クーゲルバーン」、木とアクリルの積み木の「スタッキングゲーム・クリスタル」など、それぞれの部屋でこどもたちの興味や成長に合わせての設定がなされています。

 その中でさくら組のお部屋には「虫や花の観察コーナー」が用意されていました。外遊びで見つけた虫やお花をじっくり観察できる空間で、虫メガネやトレイ、植物や昆虫の図鑑が添えられていました。目線を下げる低いテーブルや壁に飾られたフォトフレームが集中したり落ち着くことのできる空間を創り出しています。そんなさくら組の「観察コーナー」のようすを担任の先生と共有していた時にあるこどもの話になりました。楽しそうに虫メガネを持って「観察コーナー」にいるそのこどもは確か「虫が苦手」だった気がするのです。幼稚園の中でクモが出たりクモの巣ができていると「こわい!ともひろ先生とって!」というやりとりをしたことがあったからです。私はその写真を見て「この子はムシが苦手だったけどもう大丈夫になったんですか?」と担任の先生に聞くと「苦手ですよ。ほら、虫メガネで見ているのは虫の図鑑なんです」と教えてくれました。確かによく見ると満面の笑みで虫メガネで見ているのは昆虫図鑑でした。

 私はこのこどもの姿がとても素敵に思いました。「虫がこわい」という気持ちと「でも、知りたい」という近づきたい気持ち。この相反するような気持ちの葛藤を抱えて、その揺らぎの中で「虫メガネで昆虫図鑑をみる」という意思決定をしたのです。「こわい・でも知りたい」という気持ちの繊細な調節をして、「こうしよう」と今の自分を決めることができたこと。ここに私は「こどもの主体性」があると考えています。この葛藤や揺らぎの中で一歩を踏み出した経験が、これからの人生の中で選び取ったり、考えたり、立ち止まって、でも、もう一度歩き出したりする「生きる力」の源になるのだと信じて保育に励んでいきたいと思います。

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